「何のために働いてるんですか?」の問いが大きな転機に~「働く」を考える 株式会社TRUST Relation 武田さん 後編

仕事とは直接関係のないDJの夢を叶えるために、10代後半から20代後半までは働いていました。子どもの誕生を前にして働くことに真剣に向き合うようになったのが29歳のときです。同時期に、代表取締役社長の田井と出会い「一緒に働きたい」と決心しました。ここから始まった試練と、乗り越えてきた現在までの話をしたいと思います。

「仕事をさせられている感」が強く、辛かった最初の5年間

最初の5年間で、立ち上げの慌ただしさと会社のピンチを経験しました。田井は、良くも悪くも現場に関与しない人です。「お前がやりたい介護事業を作れば、俺がやりたい形になるから頼むわ」と立ち上げ業務を任されました。ゼロの状態から一人で調べて、登記の書き換えや助成金の申請などをなんとか終わらせました。

アルバイトから正社員になり、34歳で管理職へとステップアップしたものの、その5年間は本当にきつかったです。

介護職は多忙な上に、人手不足。夜勤の後に続けて日勤、そのまま営業に行って請求書も書いて……という状況が日常的で、職場に泊まることもしょっちゅうでした。33歳でポリープの手術をした日も、手術当日に夜勤をしたんですよ。そのぐらい壮絶な現場でした。

自分が入社して2年後に株式会社TRUSTから介護事業が独立し、株式会社TRUST Relationになりました。介護業界は利益が出にくく、人件費で売上の6割が消えていきます。田井も僕も経営は素人なので収支管理が十分にできず、売上は年々伸びているのに、それ以上に経費が膨らんでいく状況が5年目まで続きました。

「ボーナスが少ない」「給料が上がらない」「スタッフのことを考えていない」とスタッフが辞めていきました。当時の僕は、「これ以上辞められたら困る」という管理者としての焦りと自己犠牲の気持ちにとらわれて、周りを見渡す余裕がありませんでした。

この時期が一番「仕事をさせられている」感が強く、本当に辛かった。

そんなときに、ミラプロと出会ったんです。

問いかけられて気づいた自分の本音、そして変容

ミラプロが運営している、様々な企業の経営幹部が集まるコミュニティ「ミライキーマンサミット」に声をかけてもらい、参加しました。同じ立場・同年代が集まっていて、悩みを共有しながら意見交換でき、得るものが多い場でした。

そこで出会った株式会社スニップのマネージャーの西岡さんたちとは、外で会う機会も増えました。ある日、西岡さんに「武田さんって何のために働いているんですか?」と聞かれたんです。この問いが、僕の転機となりました。

「家族や社員を守るため」と答えると、

「そんな仕事の仕方をしてておもしろいですか、マジで言ってます?」

と言われた瞬間、「あ、マジで言ってないな」と自覚したんです。本当は自分がやりたいことのために働きたいのに、そんな働き方ができていない。その原因は「自分自身の在り方や心の持ち方がズレているからだ」とハッとしました。「社長や部下が悪い、環境が悪い」と外側のせいにして、自分事に考えられていなかったんです。

本来は人の評価なんて気にしないタイプなのに、この時期の僕は良い人でいようと振る舞い、自分の意見を押し殺していました。「会社を良くするにはどうすればいいのか、もっと考えよう。どうせしんどいんやったら自分の考えをぶつけてみよう」と決意しました。その翌週、嫌な顔をされるやろなと覚悟しながら、「僕が会社の収支を全部管理します。就業規則も作り直します」と、田井に伝えました。

すると、「俺、そこ苦手やから頼むわ、ありがとう。お前、やっと俺にそういうこと言ってくるようになったな」と受け止めてくれました。

枠からはみ出したらダメだと勝手に思い込んでいたけど、本当に会社のことを考えての意見なら喜んで聞いてくれるものなんですよね。そこから業務を改善していき、2年後に「そこまで会社のことを、自分事として考えてるんやったら、もう役員や」と言ってもらえました。

原点に戻って、やりたいことのために「働く」

僕の「働く」に対する意識を言語化すると、「誰と働くか」です。

よくあるテーマだと思われるかもしれませんが、自分の中ではいろいろと複雑に絡まっています。大事にしているのは「自分がどうありたいか」をしっかり想像することです。それができていれば、大変なときも「今はそのための試練だ」と思えます。

メンタルを整えるための日課は、毎朝の瞑想と今日の楽しみを、必ずひとつ作ること。「帰りにアイスクリームを買おう」など、小さなことでいいので、楽しみを決めてから仕事に向かいます。

バランスも重要だと思っています。仕事だけでも健康だけでもダメだし、社会貢献だけでも営利だけでもダメ。注力することがあっても一つに全振りせず、他の要素にも数パーセントでも力を注ぎます。今どこに比重を置いているのか把握しておくと、必要なことが見えてくるし、間違った方向に進むことがありません。

孝橋 悦達さん(株式会社明成孝橋美術 代表取締役社長)から、こんな言葉をもらいました。

「武田さんはスポンジやな。誰の言葉からも刺激を受けて吸収しようとする。ただのスポンジじゃなくて、吸収した上で『武田エフェクター』にかけて発信するプロやね。人の真似をしてるようやけど、オリジナルなんよね」と。

めっちゃ嬉しかったです。

深掘りしてわかったのは、僕は「人から褒めてもらいたい、認められたい人間」だということ。お金や地位が欲しいわけじゃなく、周りの人に「一緒におったら温かいね、楽しいよね」って思ってほしい。そんな思いがあるので、将来はコミュニティカフェを作りたいんです。

若い子たちが育って会社を任せられるようになったら、自然のパワーがもらえる場所にコミュニティスペースを作り、好きなことをやりながら、食べていけるだけの収入を得られたらいいですね。

人とのつながりや信頼、思い出は、お金以上の価値があると思います。そんな価値を大事にしたいんです。将来はコミュニティーカフェで、ランチに来た後輩には会社の様子を聞かせてほしいし、音楽でつながった仲間が好きなレコードをかけるのもいい。それが僕の夢です。夢を叶えるために働いていた20代に戻る感じですかね。

小さな一歩でいい。まず、やってみる!

ミラプロで出会う学生には、「目の前の楽しいことを見つけたらいいだけ。やりたいことをやればいいし、途中で変えてもいい。失敗したらやり直せばいい」と伝えています。「やりたいことがない」と悩む学生が多いのですが、掘り下げて聞くと何かしらあるんですよ。プレッシャーで目の前がぼやけることもあるだろうけど、直近の楽しみややりたいことを目指してがんばっているうちに、自分らしく働ける環境に出会えると思います。

一つだけアドバイスするなら、「とりあえずスタートを切る」こと。スモールスタートでいいので、今すぐできることをやってみる。その一つが、人に会いに行くことです。興味がある人や会社があれば、その人に会いに行ったりアルバイトから始めたり。僕なら、求人が出ていなくても「興味があるんです」と伝えることからアクションを起こします。

ハードルは高いかもしれないけど、まずは、会いに行って話しかけてみる。みんなに平等にあるチャンスを掴むか掴まないかが今後につながる第一歩なので、どんどん行動してほしいですね。

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ミライ企業プロジェクト事務局

ミライ企業プロジェクト(略して「ミラプロ」)とは、若者と中小企業のミライが共に広がるプラットフォームを創るプロジェクトです。

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