「ありがとう」の循環を生み出し続ける

〈株式会社明成孝橋美術 〉
代表取締役社長

孝橋 悦達さん

商品パッケージ、販促物の企画デザイン・特殊印刷加工を行う「明成孝橋美術」(大阪市天王寺区)。「心を込めた仕事がお客様の成功につながり、喜んでいただけることに価値がある」。そう繰り返す孝橋悦達(たかはしよしのぶ)社長に、目指すミライについて聞いた。

「好きなこと×得意なこと」でお困りごとを解決

――事業の目的は?

自分たちの好きなことと得意なことをかけ合わせてお客様に喜んでいただくことが何よりも大切だと考えています。ものづくりを生業とする私たちは、ともすればエンドユーザーの視点を置き去りにしてしまいかねません。しかし本来、パッケージは作り手の想いを伝える“メディア”として、メーカーとエンドユーザーの橋渡しをするコミュニケーションツールです。私たちが得意とする印刷加工・デザイン技術を活用して、身近な社会課題(お困りごと)を解決するのが目指すところです。

昨年、大学生と共同開発した「凸ペタシール(でこぺたしーる)」はよい事例です。コンビニでポイントカードを探すのに手間取る視覚障がい者を見たことを機に生まれたこの商品。「健常者が障がい者のことを思って考えて作られたケースはこれまでなかった。こういう取り組みを通して、モノの利便性だけでなく、優しさみたいなものも広がっていけばいいね」という喜びの声をいただきました。

当社が手がけた商品パッケージでお客様の商品がヒットしたり、心を込めた仕事が伝わったり。感謝されることで社員はやりがいを感じ、次の仕事につなげられます。「作ってよかった」「ありがとう」の循環を生み出し続けられる企業でありたいと思っています。

何かに固執することはリスクになる

――目的を果たすための方法は?

「お客様が喜ぶことだけを考える」という理念を明文化し、ミーティングで繰り返し伝えています。続けているうちに、受け売りではなく、自分の言葉で理念について語れる社員も出てくるようになりました。

コロナ禍で売上や収益が減り、改めて大事なものを見つめ直したとき、「最終的に大事なのは人だ」という結論に至りました。そこで昨年夏頃から木鶏会(人間学を学ぶ社内勉強会)を開始。課題図書を読んで、感想を共有しています。参加は強制していないので参加しない社員もいますが、少しでも参加率が高まるように、社員主導のもと、やり方は自社流に工夫しています。

社員の耳にタコができるほど繰り返し言っていることなのですが、自分たちのありたい姿は「明成孝橋美術」という社名に隠されています。「明るく成功に向かって、孝行心を大切に、橋をかけるがごとく、いろいろな人々とつながりながら、美しいモノづくりとコトづくりを実現するための術」というのがその答えです。

このご時世、未来がどうなっていくのか、わかる人はいないのではないでしょうか。だからこそ肝心なのが、常に柔軟な発想ができる状態をつくっておくこと。何かに固執してこうあらねばと思った時点で思考は硬直化し、時代の変化に取り残されてしまう。当社でもパッケージにこだわるつもりはまったくありません。

目的さえブレなければ、手段は何だっていい

――実現したいミライは?

経営者は大きくて夢のあることを言いがちですが、私は右肩上がりで会社の業績を伸ばすより、ずっと仕事をし続けられることを重視しています。毎年新しいメンバーを迎えるにつれ、徐々に会社が実現したい方向に近づいてきました。

2019年には、大学生と共同でオリジナル商品「懐話ふだ」をつくりました。高齢者が思い出話を楽しみながら、認知症を予防できる新感覚ゲーム「懐話ふだ」は、介護関係者からも「聞いたことのない話をたくさん聞けた」と好評をいただいています。

昨年には、愛知県のサッカークラブが観客動員を増やす手段として「懐話ふだ」を活用してくれることが決まるなど、思わぬ広がりも出てきています。コロナの影響でまだ実施できていませんが、選手たちが地域内の介護福祉施設をまわり、「懐話ふだ」を通じて入居者やそのご家族と交流を図る予定です。

オリジナル商品の開発を通じて感じたのは、エンドユーザーの喜びに直接触れられる喜びです。それがどれだけのエネルギーとして還ってくるかを実感した今、オリジナル商品の開発にもっと力を入れていきたいという思いが膨らんでいます。「こうあらなければならない」ではなく、みんなの「こうありたい」が混ざり合うことで、会社全体の「こうありたい」を醸成していく。それが利益を生み出せる「ありがとう」と言われるモノづくり、コトづくりにつながるのであれば、手段は何だっていいんです。

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