スタッフの成長が会社を成長させる
――事業の目的は?
美容を通じて、みんなで夢と幸せを広げていくことです。開業当時は家族を守るために働いていましたが、ある日スタッフに「会社は将来どうなるのですか?」と聞かれたとき、彼らの生活や将来も会社が支えていることに気づいたのです。
創業当初は「もっと笑顔で接客しなさい」などと、いわば箸の上げ下ろしの仕方までスタッフに事細かく指導していましたが、なかなか思うようにいかず頭を悩ませていました。いろいろと試行錯誤した末に思い至ったのは、スタッフに自分の理想を押しつけていただけだったということ。自分で考えて行動し、その結果を実感したときに人は一番成長することに気づいたのです。
楽しそうに働くことが最高のおもてなし
――目的を果たすための方法は?
美容バブルに陰りが見えはじめ、それまでの「成功の方程式」が通用しなくなったのを機に、2010年、会社の新しいビジョンを「めちゃめちゃやばいグッドカンパニー」に決めました。そのビジョンを社員の前で宣言したところ、共感を呼び、社員が積極的にアイデアを出してくれるようになりました。
人の成長が軸になるので、教育方針も「教えない」に変更。何か聞かれても、自分で考えるように促しています。はじめはみんな戸惑いますが、失敗を重ね、自分で答えを探す経験を重ねていくうちに着実に力をつけています。その成長の早さは、見ていて感心するほど。何よりスタッフが楽しそうに、笑顔で働くようになりました。お客様と1対1になる場面が多い美容師という仕事柄、担当している美容師がキラキラ輝いていたり、一生懸命頑張っている姿を見せたりするのが、お客様に対する最高のおもてなしだと思います。
スタッフの離職率が低いのも、スニップの大きな特徴です。美容師全体の平均離職率は、入社1年以内で50%、入社3年以内で80%にものぼります。対して、直近3年間の当社の離職率は、1年以内で15%、3年以内で30%。コロナ禍の影響で少し離職率が上がってしまいましたが、それでも業界平均を大きく下回っています。
理由は大きく2つあります。1つ目は採用段階で学生ウケを狙わず、「うちはこういう店です」と正直に伝えていること。面接は店舗で1日働く実習型で、私も含めた全社員60名が投票して合否を決めます。一人一票制なので、私も新入社員も同じ「一票」です。自分が選んだスタッフという意識が芽生えるからか、皆、積極的に新入社員と接するので、関係構築のスピードは速いと思います。
2つ目は、顔を合わせる機会をつくり、同期の結びつきを強めていることです。新入社員は入社後、各店舗にバラバラに配属されるのですが、7ヶ月ほどの間は、週に一度、一堂に会して勉強会を行うようにしているのです。
コロナ禍ではこれができなかったことが離職率を高めた大きな要因だと見ています。その代わり、社内コミュニケーションツールの整備やSNSなどの発信について学ぶことに時間を費やしました。
どんなときも仕事の本質を忘れずに
――実現したいミライは?
美容師は、人の幸せに直接関われるすばらしい仕事だとつくづく思います。お客様の髪をきれいにするのはもちろん、行くのが楽しみになるような憩いの場を提供するために、コロナ禍のような想定外の状況に置かれても、変わらない気持ちを持ち続けることが大切です。
人は誰かの役に立つことで幸せを感じて、成長できるものです。僕の最大の仕事は、「スタッフ全員が輝ける」ステージづくりです。たとえば、まだキャリアが浅く、技術面では未熟なスタッフでも会社や世の中に貢献できる場をつくり、お互いがそれを認め合えるようにしたいんです。私たちが店舗展開を大阪市内に限定しているのは、一緒に働く仲間が常に顔を合わせられる距離感を守り続けたいからです。
昨年は、創業メンバーの一人でもあるママさん美容師に店の営業権を譲渡し、独立をサポートしました。スニップのフランチャイズ店舗のような形態で運営していますが、かねてから思い描いていたビジョンが実現したことをうれしく思っています。
現在、社員は60名。スタッフの数が増えれば増えるほど、「全員が輝ける」ステージをつくることは難しくなるでしょう。しかし、みんなでその難題を解決していくプロセスが新たな成長を生むはずです。コロナ禍は私たちにとって向かい風ですが、これを乗り越えたとき、私たちは大きく成長できると信じています。
といっても、店舗数やスタッフの数を増やすことが目的ではありません。「スニップが必要とされている地域に店を出す」という方針は一貫しています。今後はより自分たちの強みを磨き、「ファミリーサロン」という一つのカテゴリを確立できるような店作りを進めていきたいと考えています。
はなはだ恐縮ではありますが、競争の厳しい美容室業界で「ファミリーサロン」という業態を創るビジネスセンスと、素晴らしい人間性を兼ね揃えた清水さんを尊敬しています。明確なコンセプトとホスピタリティ、スタイリストの方々にまで浸透する哲学が「商品=人」である美容室業界で勝ち続けられる理由だと感じています。
「会社は従業員の成長の場であるべき。従業員がやりがいを持って働いていることがお客様の満足につながる」と考えて経営されている清水さん。心理的安全性が確保された場で自由闊達に意見を言い合える会社だと感じています。従業員が失敗も成功も経験しながら自ら成長していく姿を温かく見守っていらっしゃることが伝わってきます。