当たり前だと思っていることに感謝
――事業の目的は?
ポップコーンの販売という仕事を通じた、スタッフ一人ひとりの成長です。切磋琢磨したり、お客様から「ありがとう」をいただいたりする経験を通じて、成長していくスタッフを見るのはとても気持ちよく、私自身が生きている意味にもなっています。
成長は、他者への貢献を通して得られるものが大きいです。自分が持っている資源(お金、時間、労力、心遣い)を人のために使う。仕事で言えば、「これは自分の仕事じゃない」と線引きをせず、仲間が困っているのであれば手を差し伸べること。それが1+1=3や4になる世界をつくり、自分自身の枠を広げたり、技能を伸ばしたりする成長につながります。仲間やお客様、取引先、社会への貢献を通じてどんどん成長してほしいですね。
お互いが気持ちよく過ごせるように考えて行動することや、人の意見を受け止め、当たり前だと思っていることに感謝をすることも「成長」です。感謝の反対は当たり前。仕事ができることやお客様が来てくれることに感謝できる人の方が一緒に過ごしていて気持ちがいいし、僕はそういう人と仕事をしたいと思います。
自立と自律 能動的な人材増やす
――目的を果たすための方法は?
「成長」を実現するために大切にしたいのは「ジリツ」です。他の助けなしで物事を行う「自立」と、自分自身で立てた規範に従って行動する「自律」。主体的、能動的な姿勢で仕事を「愉しむ」ことが、成長をきっと後押ししてくれます。ジリツした人材を増やしていきたいので、私の経営の基本スタイルは「あまりかかわらない」と「管理しない」です。社員には、本人がやりたいと望む仕事をできる限り任せるようにしています。
これまでに、ニュースレターの作成、子どもたちにポップコーンの製造・販売体験を提供する「キッズチャレンジ」、ポップコーンの新しい味の開発など、社員が考え、実行したチャレンジ事例は数多くあります。さらに最近では採用も任せ、会社の方針や理念も社員が変えられるようにしました。現時点で支障は出ず、働く意欲が高まったという印象です。一人ひとりが主体性を持って働くことの重要性を再認識しました。
やりたい仕事をやるのは、自由であるとともに責任も伴いますが、自分で考えて行動するため着実に成長します。スケジュールの調整や準備はもちろん、他のスタッフとの連携なども必要です。人に頼むことも大切だし、頼まれたスタッフが「あなたのためなら」と動いてくれる、そんな人に成長してほしい。失敗したっていいのです。むしろ失敗した方がより成長する。失敗しないようにする仕事は面白くないですし、チャレンジしていないのと同じです。
また、インターンや障がい者職業体験の受け入れ、障がい者雇用も継続して行っています。どちらも、スタッフが自主的に受け入れを進めていて、現在当社では障がいを持つスタッフが5人働いています。僕は彼らにも仕事を愉しんでほしいので特別扱いはしません。社会人として意識すべきことがあればきちんと伝えますし、期待していることも伝えています。
来期からは、中学生も職業体験で働きにくる予定です。「こうしないといけない」というリミッターがなく、自由に意見を言い、好奇心旺盛な中学生が職場にいれば、きっと互いに刺激を受けるでしょう。
コロナ禍になって深く実感したのは、経営者はできるだけ何もしない方がいいということ。その方がスタッフはがんばるし、他の人たちも助けてくれる。いざというときに助けてくれる仲間やお客様がいる「危機に強いチーム」をつくるためにも、普段から信頼して任せることを大切にしています。任せる経営を続けてきたことで、社員が私に何かを聞いてくることがなくなりました。主に壊れた機械の修理や掃除などをしているため、妻からは用務員だとからかわれています。
自分たちで食住を賄えるコミュニティを熊野に
――実現したいミライは?
以前から「2028年には社長を引退する」と社員に宣言しています。経営を任せられる人材を育てるため、社員だけで経営会議を進めたり、予算計画や業績目標を決めたりする場をつくることで、経営を「自分ごと」として捉える意識を醸成しています。
会社を後進に譲る準備と並行して、三重県熊野市の古民家を拠点としたコミュニティをつくる計画を進めています。宿泊から食事、農業体験、家のリノベーションまで、すべてを共感で行う「お金のいらない世界」をつくりたいと考えています。お金や社会の仕組みに依存しないため、自分をなくさないため、自分たちで食住やエネルギーを賄えるコミュニティをつくりたいのです。それは、ひとつの社会実験でもあります。現代は、何かをやる理由がお金に紐づいていないと不思議がられる時代です。そんな“常識”には当てはまらない価値観や世界もあることを証明したいと思っています。
社員さんが自主的に考えて行動する会社をつくられている宮平さん。年に1回の経営指針発表会では、社員さんが皆生き生きと運営されている様子や、招待された方々の笑顔が印象的です。ポップコーンを手段と捉え、一緒に働く人たちやお客様の幸せを本気で考えているDreamsさんは、これからがますます楽しみな会社です。