どう働くか=どう生きるか
――事業の目的は?
働くみんなが幸せになれる会社づくりです。なぜなら「ここで働けて幸せ」と思えてはじめて、お客様に良いものを提供できるからです。
先代社長だった私の父は、昭和時代にありがちなワンマン経営者でした。父のもとで自主性が失われていく社員を見て、これではいけないと衝突を繰り返していたある日、「それなら、お前がやれ!」と言われ、未熟なまま社長に就任しました。私には2人の子どもの不登校で深く悩んだ時期がありますが、子どものありのままを認めよう、子どもが持っている主体性を信じようと思えるようになってから状況は好転しました。

社員教育も、子育てと同じです。「あなたがいてよかった」と伝え、「やっていいよ、お願い」と信頼して任せること。疑問に感じる点や納得がいかない点に対しては、しっかり耳を傾けて寄り添うこと。社員のありのままを認めることでモチベーションが上がり、主体的、積極的に仕事に関わっていくようになります。「どう働くか」はすなわち「どう生きるか」。社員が正直に生きられる会社をつくりたいと思っています。
弱音を吐ける場が必要
――目的を果たすための方法は?
お客様である食品工場の多くが、近年、深刻な人材不足やコロナ禍に伴う衛生観念の高まりを背景に「作業工程を機械化したい」と望まれています。当社は充填機でその社会課題を解決する会社として、なるべく人手をかけずに、もしくは人の手を介さずに製品を作り続けられる環境づくりをお手伝いしています。 それぞれのお客様に標準品をただ販売するだけではなく、どうすれば人手が少ないなかでも生産性を高められるかを考え、一緒に機械をつくるところから取り組んでいます。
また、営業所を毎年一つずつ地方に開設し、お客様から「安心」と言っていただける “地域密着型”の営業体制を構築していることや、変化に柔軟に対応していく経営も当社の強みです。お客様の身近な存在となるべく努めてきた成果が、コロナ禍での増収増益として結実したのでしょう。リピートされるお客様も増えており、業界シェア1位の「ナオミ」というブランドへの安心と信頼を感じています。
この強みを伸ばし続けるために欠かせないのが、社員の人間力を高めること。私自身がまず、一人の人間として未熟な部分も本音で開示することを心がけています。会社でも経営者や上司が弱音を吐かなければ、若手も弱音を吐けません。家庭でも親が弱音を吐けなければ、子どもも弱音を吐けません。
2014年、京都の街中に創設した“みんなが羽やすめできる居場所”「学び舎 傍楽(はたらく)」はまさに弱音を吐ける場です。2018年からはコンセプトを「すべての年代の人が孤独にならない社会へ」と改め、若者を中心としたさまざまな世代を対象に、社会貢献活動として運営しています。
それぞれの「ちょうどいい」を見つけ出す
――実現したいミライは?
今以上に、自由な発言と認め合いが当たり前の会社にすることです。そのために大切にしているのが、社員を50人以上に増やさない「1クラス経営」。表面的なコミュニケーションではなく、痛みを伴っても、踏み込んで、ひとりの人間として付き合っていくには、お互いの顔が見える「1クラス」が限界です。それぞれにとって「ちょうどいい」ところを実現するためには、このくらいの規模感が「ちょうどいい」のです。
コロナ禍をきっかけに気づいたのは、どう働きたいかは人によって違うということ。「チームとしてやっていくのがいい」という私たち経営陣の想いが強すぎたからか、お金が欲しい、家庭やプライベートの時間を大事にしたいという社員の多様なニーズに気づけなかったんです。今後のテーマは、個々が望む働き方、生き方を最大限尊重すること。現状として、子育て中のお母さんは定時で帰っていいという仕組みを整えていますし、社内でもそれが当たり前のこととして受け入れる空気が醸成されています。

一方で、課題なのが「男性の育児参加」。当社には子どもがいる男性社員も多いのですが、まだまだ改善の余地があります。育児の仕方や父親としての関わり方を学ぶ機会を社員教育に取り入れることで、男性の育児参加を促しています。「個々を尊重する」他の取り組みとしては、社員に副業を奨励しています。現代はもはや、一寸先がどうなるかもわからない時代です。会社の未来が確かなものだと約束できないからこそ、社員には自分で生きる術を見つけてほしいと願っています。
そんな今、私たちは「学び舎 傍楽」の次のステップとして、自己決定ができる人たちを増やすための学校づくりを計画中です。子どもたちがご機嫌に生きている大人と出会う機会や、大人が子どもに戻って自分の感情を素直に表現できる機会を提供したいのです。結局、大人が心豊かに日々を過ごすことが家庭の平和、ひいては社会の平和につながると考えています。
まさに「人間力経営」を体現されている駒井さん。会社の業績がすばらしいのはもちろん、駒井さんの人間力が社員さんの成長を促しているように感じます。ナオミの社員さんと接していて感じるのは、温かく優しい人柄です。経営者なら誰もが「こういう会社をつくりたい」と願うような会社を具現化されているところが強みだと思います。
大らかな駒井さんと、そのそばで笑みを絶やさない川田さん。初めてお会いしたときに、アメちゃんをもらったことを鮮明に覚えています(笑)。いつもホッとさせてくれるお二人の愛情が詰め込まれたさまざまな取り組みは、たくさんの人に温もりと希望を与えていると思います。これからも人として大切なことを学ばせていただきます。