「ダイバーシティ&インクルージョン」が当たり前に
――事業の目的は?
誰もが生き生きと輝ける社会にすることです。そのために、従業員が物心ともに幸せになることを追求しながら、関わるすべての人が素晴らしい人生を送れるように「働く・生きる」をサポートしています。
そもそも私が起業したのは、がんばっている人を応援したかったからです。障がいを持っていたり、不登校だったりと就労困難な方の就職をサポートするために、運転免許取得や海外留学の支援などを行ってきました。しかし、「感動」と「雇用」を創出して、関わる人を幸せにしたいと願っていたにもかかわらず、3人の社員が相次いで退職してしまったのです。
障がい者雇用などに力を入れるあまり、知らず知らずのうちに他の従業員に目を向けなくなっていたのかもしれません。そこで理念を見直し、2017年6月、さまざまなバックグラウンドを持つ人がお互いに認め合い、生き生きと働ける社会を目指す「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を行いました。
それから4年以上経った今、「ダイバーシティ&インクルージョン」は目指すものではなく、当たり前のものになりつつあると感じています。最近は特に、発達障がいのある不登校の子どもたち向けのフリースクール「アイエス学園」、人を思いやる心を学ぶ通信制高校「RITA学園」の事業が順調に広がっています。奈良と神戸に拠点を構えるアイエス学園は、2022年2月、東京、京都に新校舎を開校。RITA学園の生徒も全国的に増えています。

「本当の幸せ」を探し求めて
――目的を果たすための方法は?
お互いを深く知り、前向きな気持ちを高め、全員参加経営を実現するため、月に一度、「未来会議」という全体会議を開催しています。その時間は、経営理念と照らし合わせながら、「誰かの役に立つとはどういうことか」「生き生きと働けているのはどういうときか」といった正解のないテーマと向き合い、自分の生き方を問い直す場です。
「共に働く」を実践するため、これまで相談があれば障がい者のインターンを全員受け入れてきたこともあり、現在従業員30名中10名が障がい者です。最近では、高齢者やシングルマザー、中卒の人など、年齢やキャリア、バックボーンを問わず、やる気のある人を採用しています。こうした動きがほかの企業、ひいては社会全体にも広がれば、みんなが夢と希望を持てる世の中になると信じています。

思い返せば、起業後は「上場したい」という野望を抱き、「脱サラで成功してすごい」という賞賛を求めていた私は、従業員を守るために売上や収益を上げることにばかり意識が向いていました。しかし近視眼的になるがあまり、自分だけがよければいい、自社だけはよければいいといった思考の罠に陥ってしまっていたのです。
そんな私に「誰かに必要とされる喜び」を教えてくれたのが、インターンシップに来て、当社を必要としてくれた障がい者の人たちです。彼らに本当の幸せとは何かを気づかせてもらって以来、優劣のものさしで幸福度を測ることをやめた私は、純粋だった子どもの頃を思い出し、自分自身が本当にやりたいことに向かって進んでいけるようになりました。
一人ひとりの大切さを知る
――実現したいミライは?
人に優劣をつける世間のものさしや既存の価値観といったとらわれから抜け出し、お互いの個性を認め合うことで育まれる「ダイバーシティ&インクルージョン経営」「大家族主義」が当たり前の社会を実現することです。そのためにも、一人ひとりが夢や希望を抱いて今を一生懸命生きるお手伝いをしていきたいです。
2021年4月から始まったRITA学園高校では、不登校だった子が学校に通えるようになることを目指す一方で、この事業に賛同してくれている企業と連携しながら、「利他育」として社会で生きていくための考え方や心の持ち方を伝えています。
もっと私たちの活動を広く届けていくために、「一人ひとりが輝ける未来」を自分たちだけでなく、共につくっていきたいと思っています。Zoomなどで、国内外の生徒たちが志ある企業の社長や社員の授業を受け、自分もこんな人になりたい、こんな会社で働きたいという夢を抱くきっかけをつくることが一つの目的です。そして各地域の仲間とともに、彼らの働く場所もつくっていくことができれば、もっと広がりが出てくるだろうと期待しています。
今井社長のお名前は亡きお父様がつけられた「真路」。その名の通り、真実一路、偽りのない真心で一途に経営に取り組まれています。誰もが無限の可能性を持っていると心から信じ、「イキイキ」、「ワクワク」、「社員と共に」をモットーにしている今井社長は、みんなが幸せになる社会を目指し、日々奮闘しておられます。
いつも今井さんを取材して感じるのは、「優しさ」と「強さ」です。物腰や口調が柔らかいので、優しいイメージを持つ人が多いと思いますが、人の可能性を信じるからこそ、その可能性を追求する強さが印象的です。また「アイエス学園」をスタートした時、経営的には不安要素が多い中、これは私たちがやるべきことと言い切った言葉が記憶に残っています。