フィリピンの貧困問題を根本的に解決したい
――事業の目的は?
フィリピンの貧困問題と、日本の健康問題を解決することです。その思いが芽生えたのは、学生の頃、途上国の環境問題を学ぶためにフィリピンの大学に留学したときのことです。ゴミ山で鉄くずやプラスチックを拾って生活する子どもたちを目の当たりにして衝撃を受けたのです。
その問題について調べてみると、貧しい農村部から仕事を求めて都市部に出てきたものの、職に就くことができず、ゴミ山やスラム街で暮らしたり、路上生活を強いられたりする人が多くいることを知りました。その貧困問題を解決するためには、農村部に産業を創って仕事を生み出すことが必要だと考えたのです。
そこで私が着目したのが、農村部に豊富に自生し、捨てるところがないココナッツです。農村の至るところに生育しており、太古の昔から「生命の木」と呼ばれるほど貴重な食料資源として人々の暮らしを支えてきたものの、その価値を十分に活かせていないことに気づいたのです。ココナッツを通じて貧困問題を根本的に解決したい、という思いから、2004年に株式会社ココウェルを創業しました。

昨今、経済発展を遂げているフィリピンでは、富裕層や中間層が増えている一方で、農村部の貧しい人たちの暮らしは変わらないままで、格差は広がる一方です。この構造問題を解決しなければという思いを一層強くしているところです。また、創業以来、食品やオイルなど、ココナッツを活用した商品を展開してきたなかで気づいたのは、ココナッツは現地の貧困問題だけでなく、糖尿病など日本人の抱える健康問題にも貢献できるということ。近年、豊かになりすぎた日本の「食」のありようは、本来あるべき姿からはかけ離れている気がしています。「健康を維持するために食べる」という意識を持つ人をもっと増やしていきたいと思っています。
ココナッツの魅力を浸透させる
――目的を実現するための方法は?
ココナッツオイルを中心に、シュガー、コスメなど、多様な商品を製造販売しています。一貫しているのは、品質に妥協せず高品質の製品をお届けすること。特に注力しているのがココナッツオイルなのですが、ブームで終わらせないために、地道なセミナー活動などで、その魅力を伝えています。セミナー後に購入される方も多く、その効果を実感しています。
また、食べ方や美味しさを知ってもらうために、テイクアウトと量り売りを主とするお店を2022年夏に事務所の一角にオープンする計画を立てています。(現在のカフェは5月末に閉店)自然栽培・有機にこだわった野菜や肉を使い、調理にココナッツ素材を使うことで糖質を抑えた健康的な食事を提供しています。カフェの経営には頭を悩ませることも多いですが、カフェをやったことでビーガンアイスクリームやカレーといった加工品のノウハウを蓄積できたのは大きな収穫です。
コロナ後は動きが止まっていますが、商品の売上の一部はココナッツ農家の設備投資や技術支援に充てるプロジェクト、自然災害が続くフィリピンへの支援などに活用。現地の活性化にも力を注いでいます。また、家庭の事情で定時制や通信制に通う高校生をフィリピンのスタディーツアーに送るココファンドプロジェクトも実施しています。

「負の連鎖」を断ち切るために
――実現したいミライは?
ますます格差が広がっているフィリピンで深刻な貧困問題の解決はもちろん、日本の健康増進のために、ココナッツの健康効果をもっと広めていきたいと思っています。具体的には、テイクアウトと製造に力を入れていきたいと思っています。製造への注力と環境負荷の低減、それらを両立させる意味でも、原料の量り売りの導入が私たちの最優先事項。カフェで培った用途開発のスキルを活かして、子どもに安心して食べさせられる加工品の開発につなげていきたいですね。
実は、フィリピンの人たちも肥満や糖尿病など、深刻な健康問題を抱えています。身近にあるココナッツの魅力を知らない人がたくさんいるので、ココナッツの魅力を広めていくためにも、ゆくゆくはフィリピン国内にカフェをつくることがひとつの目標です。
貧しい家庭で育った子どもたちは教育を受けられないがゆえに、貧しさから抜け出すチャンスを得られにくいのが現状です。その「負の連鎖」を断ち切るためにも、フィリピンのカフェは赤字でもいいので、ゴミ山やスラム街で生活している人たちの雇用につなげていきたいと思っています。
環境問題などの社会課題にも目を向けておられるなど、時代の先端を行く素晴らしい企業だと思います。代表の水井さんは、飄々とされていながらも、穏やかであたたかく、芯の強さを感じる方。そして何より『信頼することが人を動かす』というあり方を体現されている水井さんの人柄に、社員のみなさんは惹かれているのだと思います。
ココナッツに懸けるその強い念い(おもい)はどこからきているのだろう?今から約7年前、水井さんに初めてお会いしたときにそんな疑問が浮かびました。いつもは柔和な水井さんが、フィリピンやココナッツについて語るとき、表情がぐっと真剣味を帯びる。その様子からも、フィリピンの貧困問題を解決したいという使命感を痛烈に感じます。